ひさしぶりにあにってみました。
何がしたかったのか;;;;
たぶんときめき要素はすくないです。
竜崎の日本公演が決まった。
世界に活動の拠点を置く彼がようやく日本にやってくる、ということでメディアは騒ぎ立てた。
アイバーも例にもれず、取材のスケジュールを手帳に綿密に書き込んだ。
「あー・・・緊張する」
竜崎は世界規模の指揮者だ。とはいえ、アイバーも数多く過去に大物の取材を行っている記者だ。
緊張するには別の理由があった。
彼は、竜崎は大変気難しい人物なのだ。
些細なことで竜崎の機嫌を損ねた人物が出入り禁止にされてしまった、そんな話をよく耳にするのである。
(下手したら俺の一生変わっちまうかもな)
知らずと深いため息がこぼれる。
「明日の仕事そんなに嫌か?」
アイバーの様子をからかうように同居人が声をかけてきた。
彼はいつものように大きめの白いシャツにジーンズといった格好でベッドに寝転がっていた。
「別に嫌じゃないさ。むしろ光栄すぎて困ってるんだ」
なんたって、相手はあの竜崎なのだから。
「まあ、むやみにご機嫌取りしないことさ。」
人ごとだと思って適当なことを・・・アイバーは喉から出かかったがグッとこらえた。
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取材は何事もなく終わった。
時間も限られていたため、用件だけしか聞くことが出来なかった。
おそらくそれは他社の者も同じだろう。
(そういえば門前払いされた記者がいたな)
竜崎にわざわざ差し入れを持ってきて必要以上に媚を売るような記者だった。
(俺は差し入れNGって知ってたから良かったけれど・・・)
なにもあんなに冷たく切り捨てることはないだろう。
仕事が出来なかった同業者にほんの僅かばかり同情した。
アイバーは撮れた写真とコメントをチェックし、その場を後にした。
朝からずっと緊張していたからだろうか、無性に喉が渇いた。
広い敷地内でようやくたどり着いた自動販売機。しかしそこには先客がいた。
竜崎だ。
とっさにアイバーは物陰に隠れた。息をひそめそっと様子を窺う。
隠れる必要ないだろう・・・・自分の行動の滑稽さに自嘲する。
竜崎は一人ではなかった。
「竜崎、いちごみるくとココアどっちがいい?」
「では両方で」
「一個しかおごってあげない」
「けちなこと言うんですね」
「お前が言うのか?」
二人の会話に壁の向こうでアイバーは固まってしまった。
失礼だが、竜崎に友人がいるイメージが全くなかったのだ。
孤高の存在で、ましてやココアやいちごみるくだとかを飲むなんて想像すらできなかった。
そういえば、と、年齢を考えればごく自然な会話だとも思った。彼はまだ二十代の青年だ。
おそらく一緒にいる青年も竜崎と同じか年下なのだろう。
(こんな姿を取材したかった・・・)
アイバーは苦笑いを浮かべた。
が、次の竜崎の一言で驚愕にかわる。
「ポケットの中に418円入ってるのは分かってるんですよ?月君の分も合わせて三本買えるじゃないですか」
月はポケットの中の小銭をすべて出して確認してみた。先ほど竜崎が言った金額に合致している。
「なっ、なんでわかるんだ・・・見たのかよ」
戸惑う月を尻目に、竜崎は得意そうににんまり笑みを浮かべた。
「音ですよ。」
「そんなバカな話あるわけないだろっ」
「私にはわかるんです。現に合っていたでしょう??」
「くそ・・・なんか悔しいな。竜崎にできて僕にできないなんて」
「私も昔は出来ませんでしたよ。悔しくて、練習したんです」
「こんなくだらない事、練習したんだ」
「悪いですか?負けたくなかったんです」
二人はそのあとも軽口をたたきながらその場を後にした。
しかしアイバーだけはその場を動けずにいた。
先ほどの二人の会話になぜか既視感を感じた。
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