『!いろめ』
※8視点
バッツと目があった。
次の瞬間には地に体が縫いとめられていた。
細い両腕が俺の手首を左右に固定する。
二つの灰の瞳が見下ろしている。
同性、などという枠を超えそれはとてもうつくしいと思った。
視線ごと彼にすべて吸いこまれてしまいそうだ。
バッツの顔がだんだん近づいてくる。徐々に体の重みも重なっていく。
やがて吐息を感じる距離まで近づいた。
俺はバッツに抑え込まれたまま体が動かない。
振りほどこうと思えばできるはずだ。
しかし、金縛りにあったかのように指先ひとつ動かせないのだ。
バッツの顔が更に近づく。
彼がわずかに眼を伏せたのがみえた。
漠然と、「キスをされる」のだと感じていた。
(それでも…構わない)
不思議と抵抗や嫌悪は感じなかった。
彼にならい、ゆっくり瞳を細めた。
あと少しで唇が重なる寸前の所で、バッツが急に目線を逸らせた。
とたんに強張っていた体が緩急した。手も足も今は自由に動かせる。
俺は今まで縫いとめていた彼の腕をやんわり解き、バッツの頬に手を添えた。
頬に手が触れると彼は少し身を引き、頬に添えた俺の手を握り締め、外した。
「ごめん」
「……?」
「俺、最低なこと、した…」
消えそうな声が、震える唇が、謝罪の言葉を紡ぐ。
彼の瞳は空を彷徨い、やがて泣き出しそうな色をした。
「本当に、ごめん…」
再び彼に伸ばしかけた手を宙で握り、そのまま地に下ろす。
こんな時ほど痛いくらい思い知る。俺は本当になにもできないガキだという事を。
今にも泣き出しそうなバッツを前に、どう接したらいいのか全く分からない。
そうやって悩んでいる間にバッツは体の上から退き、踵を返してどこかに走り去ってしまった。
小さくなっていく彼の背中を茫然と見つめる。
先程のバッツの瞳。おそらく、あんなふうに熱のこもった瞳で見つめられたのははじめてだ。
(俺は、嫌じゃなかった)
寧ろキスを途中で止められてしまった事実がひどく悲しかった。
「…あんたに謝られたら俺はどうしたらいいんだ」
謝るくらいなら、最初からあんな瞳で見つめないでくれればよかったんだ。
俺は少しだけバッツを恨めしく思った。
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!いろめで身動きとれなくなった8もえ
そんだけです(汗)