『記憶』
彼は元来明るい性格だった。
明るいものだと、思い込んでいた。
暖かな光が降り注ぐ庭の片隅に、膝を抱え何か思いつめるように塞ぎこむバッツの姿を見つけた。
ふざけて騒いでいる時の彼とは表情も印象も違う。
俯き加減の彼の眼下には長い睫毛が影を作っている。
こうやって改めて見れば、バッツはそれなりに端正な顔だ。
スコールは落ち着かなかった。
悲しい事に、自分はバッツの心の内を聞き出す術など持ち合わせていない。
いくら気がかりでもこっちが心配したそぶりを少しでも見せれば、わざとらしく甘え、そのうち茶化してしまう。
もっとひどい時は、勢いで体を繋ぎ、翌日何事もなかったかのように振る舞う。
―― 好きな人に誘われたら断れるはずもない。
スコールがもう少し余裕のある態度を取れていたなら、
あるいは本音を聞き出せたのかもしれないがそれはバッツが一枚上手だった。
(流される俺が悪いのか…)
こんな関係をいつまで続けていられるのか。
スコールにはバッツが塞ぎこむ理由がおそらくわかっていた。
”別れ”
いつも自分が目を逸らしている現実だ。
そしてそれは近いうちにやってくる。
流されるように関係を続けた或る日、スコールは思い切ってバッツに聞いてみた。
「アンタ、どこまで思い出した?」
するとバッツは悲しそうに微笑んだ。
「多分、スコールと同じだよ」
「…そう、か……」
スコールは実はほとんど全部自分の世界での事は思い出していた。
― 自分を待ってくれている人の存在も。
それ以上は会話がつづけられなかった。
スコールだけではなくジタンも気づいていた。
最近のバッツは近寄りがたい時がある、と。
”話せば普通に話してくれるし、前みたいに遊んでくれるけど”
少し前なら、年上だというのにガキみたいだとか、どっちが年下だ、などと軽口を叩いていたものだ。
しかし今のバッツは年相応、それ以上に落ち着いていた。
はじけるような笑顔は見られない。口端を少し持ち上げて静かに微笑むバッツ。
(あんたは本来そんな風に笑うんだな)
きつく抱き合い彼の体温を誰よりも近く感じているのに、今のバッツは誰よりも遠かった。
「スコール、おれ忘れないから」
― これが最後の夜になるかも知れないというのにアンタは優しいキスの一つもくれずにそう言ったんだ
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これじゃ8がただの甘ったれにみえる・・・・ごめんなさい